訪日外国人観光客の回復とともに、インバウンド集客の主戦場は大きく変わりました。旅行前の情報収集は、Google検索や旅行サイトから、TikTokやInstagram Reels、YouTube Shortsといったショート動画へと急速に移行しています。言語の壁を越えて体験を直感的に伝えられる点が、その背景にあります。
一方で、日本企業の海外向けSNS運用を見ると、成果は二極化しています。再生数は伸びているものの来店や購買につながらない企業と、派手なバズはなくても着実に海外客を呼び込んでいる企業です。この差は、動画のセンスや撮影技術だけで生まれるものではありません。本記事では、ショート動画時代において海外SNSで選ばれる企業が押さえている構造的な違いを整理し、自社がどこを見直すべきかを判断する視点を提示します。
再生数と来店意欲は必ずしも比例しない
結論から言えば、海外SNSにおける再生数は、インバウンド集客の成果指標としては不十分です。ショート動画は拡散力が高く、流行の音源や演出を使えば再生数自体は伸ばせます。しかし、その視聴者が日本旅行を検討している層かどうかは別問題です。
選ばれる企業は、再生数よりも保存やシェアといった行動を重視しています。旅行計画中のユーザーは、後で見返すために保存し、同行者と共有するためにシェアします。こうした行動は、プラットフォーム側のAIにも「有用な情報」として評価され、同様の関心を持つユーザーへと優先的に届けられます。
一方、埋もれてしまう企業の動画は、エンタメとして消費されて終わるケースが少なくありません。視覚的に面白くても、行きたくなる理由や実用的な判断材料が不足しているためです。インバウンド向けショート動画では、観光ガイドの一部として機能する情報性が、来店意欲を左右します。
ローカライズは翻訳ではなく文脈設計で決まる
海外SNSで成果を出す企業は、ローカライズを単なる言語翻訳として捉えていません。結論として重要なのは、体験の前提条件を補足する文脈設計です。日本では当たり前の文化やルールも、海外ユーザーにとっては不安要素になり得ます。
例えば、飲食店での席料や予約ルール、現金が必要な場面などは、事前に分からないと敬遠される原因になります。選ばれる企業は、映像内の短いテキストや音声でこうした点を自然に補足し、初めて訪れる体験への心理的ハードルを下げています。
「ショート動画は言語レスでよい」という考え方は、競合が少なかった時代には通用しましたが、現在は通用しにくくなっています。映像美は前提条件であり、その上で異文化の文脈をどう補足するかが差別化要因になります。これは、動画内のテキストや音声情報が検索や推薦に影響する現在の技術環境とも整合しています。
見つけられるかどうかは動画外で決まる
ショート動画の内容と同じくらい重要なのが、キャプション、ハッシュタグ、位置情報といったメタ情報の設計です。現在のSNSは、エンタメだけでなく検索行動の受け皿としても機能しています。そのため、AIが動画を正しく理解できなければ、関心のあるユーザーに届きません。
埋もれやすい企業は、日本語中心のタグや、競争が激しすぎる汎用タグに頼りがちです。一方、成果を出している企業は、国や言語ごとに検索されやすい具体的なキーワードを選び、動画内容と説明文の整合性を高めています。
映像、音声、テキストの情報が一致している動画は、プラットフォーム側からも評価されやすく、地域名や体験内容を含む検索結果に表示されやすくなります。結果として、偶然の拡散ではなく、意図を持った発見につながります。
まとめ
ショート動画時代のインバウンド集客で選ばれる企業には、共通する視点があります。
・再生数ではなく、保存やシェアといった行動を指標として捉えていること。
・翻訳ではなく、異文化の文脈を補足するローカライズを行っていること。
・動画内容とメタ情報を一致させ、見つけられる設計を意識していること。
まずは、自社の動画が「誰にとって、どんな判断材料になっているか」を一つ見直すことから始めてください。それが、一過性のバズではなく、継続的に海外客を呼び込むための現実的な第一歩になります。


















